あの地震からほぼ8ヶ月がたつ。塩釜港内のプレジャーボートは奇跡的にも被害は少なかった。一方、外洋に湾口を向けた松島湾のマリーナや泊地の被害は甚大で、多くのボートが津波に流され全損したという。昨年に続く2回目の塩釜でのトーナメント開催にあたり、実行委員会では中止も検討されたというが、最終的には、開催を果たした。
「このイベントを東北のマリンレジャー復興の第一歩にしたい」(日本舟艇工業会東北支部・竹本支部長)との願いが、主催者には強かった。そんな願いに応えるように、塩釜市のヤマハマリントラスト店“くろしお”、“仙塩マリーン”をはじめとする地元のボートディーラーたちは精力的にお客さまをトーナメントに誘い出した。確かに彼等にとってマリンレジャーはビジネスそのものであったかもしれない。でも全てのスタッフが「海が、フネが、釣りが人にもたらす喜び」の力を信じていたし、知ってもいた。こうして今年の「BOAT GAME FISHING 2011 in 塩釜」の舞台には25チームがエントリー(うち1チームは当日キャンセル)した。彼等もまた、海の素晴らしさを誰よりも知っていた。
今大会でのチームSR-Xは、くろしおの内海直行さん、そしてヤマハから中村弘さんの2名、さらに取材スタッフの2名が加わった4名が乗り込んでのエントリー。スタートフィッシング後、目指したのは亘理沖に広がる砂地の海域だ。F70を搭載したSR-Xは他の高馬力エンジンを積んだボートに少々遅れはとったものの、低く波長のあるうねりの中を軽快に走っていく。目指すエリアに到着すると、すでに多くのチームがメタルジグを海に落とし、釣りをはじめていた。
塩釜大会の対象魚は3つのカテゴリーに分かれている。カテゴリー1はブリ、サバ、ヒラマサ、カンパチ。カテゴリー2はマグロ、カツオ、シイラ。カテゴリー3はマダイ、ヒラメ、スズキ、アイナメ、ソイ。この亘理沖に集まったチームの多くはカテゴリー1での勝負を挑んでいるようで、我々チームSR-Xもブリ族の大物を期待してこの海域にやってきたのだ。
宮城県仙台沖は世界三大漁場のひとつに数えられるほど海が豊饒なことで知られるが、この日もその称号に恥じない釣果を各船があげていった。周りを見ると、次々とバーチカルジギングで青物を釣り上げている。取材スタッフを乗せたチームSR-Xは各チームの奮闘ぶりを撮影した後の実釣となり、チームメンバーにはストレスを与えてしまったが、短い時間で濃密な釣りをしようと意気込んだ。
ポイントに到着したころに比べると風が強まってきた。うねりも高くピッチも短くなってきている。それでもSR-Xは、いつも通り抜群の安定感を発揮し、アングラーに不安を与えない。この日はもう1隻のSR-Xがエントリーしていたが、端から見ていても乗り手に安心感を与えてくれていることがうかがえる。
検量会場は塩釜の観光拠点ともいえるマリンゲート塩釜に設置された。周囲にはまだ灯りのともらない信号機があり、被害が甚大であったことを彷彿とさせはしたが、レストランや土産物屋は営業を再開しており、塩釜の人たちが復興への道を一歩一歩進んでいることがうかがえた。
予想されたとおり、カテゴリー1のサイズは図ったように56~8センチのサイズでまとまっていた。1本でも堂々とワラサと呼べるサイズを釣り上げれば優勝は確実だったろうが、そう簡単にはいかなかった。そのなかで60センチオーバーを釣り上げたチームが2チーム。チームSR-X、そしてYF-24でエントリーしたチームヤマハも善戦はしたが入賞には届きそうにない。
一方、カテゴリー2の釣果はゼロ。カテゴリー3では松島湾外に浮かぶ島や磯のさらし周りを中心に熱戦が繰り広げられ、良サイズのアイナメや真鯛が検量会場に持ち込まれた。
マリンゲート塩釜の表彰式会場には、どこの表彰式会場でも見られるのと同く、多くの笑顔があふれていた。入賞したチーム名がアナウンスされるたびに祝福の拍手がわき起こり、名を呼ばれたチームのアングラーたちは前に進み出て、堂々と、誇らしげに、時には照れくさそうに盾を受け取った。
この中には常識を遙かに超える苦難を体験した方が多くいたはずだ。それでもここにいるアングラーたちは今日、ボートに乗り、沖に舵を取り、魚を追った。今シーズン最後の大会参加となったチームSR-X、そしてYF-24は、この日も荒波の中で抜群の走行性能を示し、釣り場においては余裕の安定性と釣りやすさを発揮はしたけれど、もっとも大きな収穫は、苦難にあってもなお海に出続けようとする多くの人々の熱気に触れたことだ。そして、そんな人たちに満足していただけるボートをこれからも造り続けたいとの思いをますます強めたことだった。
チームSR-Xにキャプテンとして乗船したのは塩釜市のヤマハマリントラスト店・くろしおのスタッフ、内海直行さん。撮影スタッフの注文に応えながら他の参加艇を周り各船の撮影を行ったが、うねりのある海域で微妙に撮影アングルを調整するなど、取り回しの良いSR-Xの性能を意外な場面で体感することができた。また、そんな撮影の合間での実釣ながらも、内海さんは良サイズを易々とキャッチ。あっというまに検量分をキープした。「SR-Xに乗り実際に沖に出たのは今日で2回目です。乗るほどに良さが実感できます。今日のようなの風、うねりの中でもピッチングせずに走る。驚きました」とその性能に舌を巻いている。
3月に発生した大地震は塩釜にも深刻な被害をもたらした。それでも地元のボートディーラーはすぐさま立ち上がり、ボートの修理をこなし、お客さまにマリンライフを取り戻そうと必死に立ち回っていた。塩釜市の仙塩マリーン・小野英逸さんは「松島湾に係留していたボートをはじめ多くのボートが流され全損しました」と顔を曇らすが、それでもこの日は多くのボートファンを海に誘い出し、大会を盛り上げた。
くろしおでも同様に自船を修理中のオーナーには試乗艇のSR-Xを貸し出し、多くのスタッフがボートに乗り込むなど、この日をともに楽しんだ。同社の鈴木雅己さんも自らチームヤマハ(YF-24)のキャプテンを務め、海に出た。
「きょう乗ったYF-24は素晴らしいボート。またSR-Xも同様です。いままで体験したことの無いような走行感で、外観の雰囲気も斬新です。画期的なボートだと思います」
コンパクトながら抜群の性能を誇り、手ごろな価格設定も魅力のSR-Xはプレジャーボート復興のシンボルとなるかもしれない。